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2017.03.31
相続税の節税のための養子縁組について(最判平成29年1月31日) 弁護士 金子剛

 相続税の節税のための養子縁組について、平成29年1月31日、最高裁第三小法廷は、養子縁組を有効とする判断を示しました。

【事案の概要及び裁判経過】

 Yは、Aの長男であるBとその妻であるCとの間の長男として出生しました。
 Aは、自宅を訪れた税理士及びその職員から、Yと養子縁組をした場合に、遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けました。そして、Aを養親、Yを養子とする養子縁組届が提出されました(以下、当該養子縁組届によってされたAとYとの養子縁組を「本件養子縁組」といいます。)。
Aの長女であるX1及びAの次女であるX2は、本件養子縁組は、Aの縁組意思を欠くものであると主張して、本件養子縁組が無効であることの確認を求めました。
 当該無効確認の訴えにつき、控訴審は、本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、そのような場合は、民法802条1号の「当事者間に縁組みをする意思がないとき」に当たるとして、本件養子縁組が無効であるとの判決を下しました。

【判決要旨】

 最高裁は、「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るもの」とした上で、「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判示しました。そして、本件養子縁組について、「縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、『当事者に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判断しました。

【コメント】

 養子縁組が無効となる場合として、民法802条1号は、「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」と規定しています。この「縁組をする意思がない」場合として、たとえば知らない間に縁組届出がされた場合のように、当事者に縁組の届出をする意思(「届出意思」)がない場合には、「縁組をする意思がないとき」に該当することは争いがありません。さらに判例・通説は、形式的な届出意思だけでなく、「実際に養親子関係を形成する意思」(実質的意思)も必要としています。

 もっとも、養親子関係というのは、実態が必ずしも一様ではありません。たとえば、未成年を養子とする場合には、監護養育という親子関係を想定することはできますが、成年を養子とする場合には、監護養育という関係を基本的に想定することはできません。そのため、「養親子関係とは何か」という問題が生じます。この点、判例や学説などでは、「親子としての精神的なつながり」があれば縁組意思は存在するなどと説明されてきました(昭和38年12月20日最高裁第二小法廷判決)。このように解釈される民法802条1号の下で、相続税の軽減のみを目的とする縁組が、「縁組をする意思がないとき」に該当しないかと争われたのが、本件事案です。

 なお、相続税法では、法定相続人の数に応じて遺産に係る基礎控除額が算出されます。養子も法定相続人に含まれますから、養子縁組により法定相続人が増えることにより、基礎控除額が増加し、節税の効果が生じることとなります(ただし、基礎控除額の計算の際に法定相続人として参入する養子の数は、上限が設けられています。)。

 本件最高裁判決は、このような遺産に係る基礎控除という制度を利用する目的のため、養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組をする意思がないとはいえないと判示しました。現実には、節税目的のために養子縁組を行うことも少なからず存在するところ、本件判決は、節税目的の養子縁組を直ちに無効とは判断しなかったことから、その社会的影響は限定的といえます。しかし、上記のように「親子としての精神的なつながり」を必要と解釈する立場からは、相続税の軽減のみを目的とする縁組みは縁組意思を欠くものとして無効と解すべきとの見解も主張されていたところでもあります。本判決は、民法802条の解釈や養親子関係を考える上で意義のある判決と思われましたので、紹介することとしました。

文責:弁護士 金子剛

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