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2016.11.01
美容診療トラブルにおける説明義務違反と損害の範囲(大阪地判平成27年7月8日) 弁護士 池田実佐子

 美容外科トラブルに関し,比較的新しい裁判例(大阪地判平成27年7月8日)をご紹介します。

 本裁判例では,医師の説明義務違反による損害の範囲について,注目すべき判断がされています。

【事案の概要】
 原告は,被告の開設する医療機関で,「スーパーリセリング」という施術を受けたところ,その効果が全くなかったとして,①事前の適用検査義務違反,②説明義務違反を主張し,債務不履行又は不法行為に基づき,約356万円の損害賠償を請求しました。

【裁判所の判断】
 裁判所は,②の説明義務違反による被告の不法行為責任を認め,その義務違反と相当因果関係のある損害として,施術費用相当額,その効果を高めるために購入した基礎化粧品の代金相当額及び慰謝料(30万円)を認めました。

【ポイント】
 本件での注目すべき点は,説明義務違反と相当因果関係のある損害として施術費相当額を認めるに当たっての判断プロセスです。
 従来,美容外科の分野において,説明義務違反が問題となりその義務違反を認めるケースも少なくありませんでした。しかし,それによる損害として,施術そのものによる損害(施術費全額や後遺障害による損害)まではなかなか認められず,自己決定権の侵害(適切な説明を受け判断する機会を奪われたこと)による慰謝料にとどまるケースが多くありました。しかも,その慰謝料額も,通常低額にとどまります。
 施術そのものによる損害が認められにくい理由は,仮に適切な説明を受けていたとしても,その施術を受けなかったとまで認定されるにはなかなかの高いハードルがあったためです。つまり,説明義務違反がなかったとすれば,その施術を受けなかったであろう「高度の蓋然性」を被害者側で立証できなければ,施術を受けたこと自体による損害の賠償までは認められません。この立証できなければ,適切な説明を受けていても,施術自体は受けていたであろうから,施術費や施術による後遺障害は説明義務違反があろうとなかとろうと発生していたというわけです。
 本裁判例も,この「高度の蓋然性」が必要であるということは同じです。ただ,その立証の責任を事実上医療機関側に転換したところに大きなポイントがあります。
 つまり,医師が適切な「説明をしなくても美容診療を受けようとする者がすでに当該美容診療の効果が確実でないことを認識していたなどの特段の事情がない限り,当該医師による(適切な)説明がされなかった結果,当該美容診療によって美容効果が確実に得られるかのような錯誤に陥り,そのような錯誤に基づいて当該美容診療を受けるに至ったものと認めるのが相当」と判示しました。
 これにより,その「特段の事情」の立証ができなかった医療機関に,施術を受けたこと自体により原告に生じた損害の賠償責任を認めました。

 実務上,美容外科の分野では,技術上のミスの他,大半のケースで説明が不十分であったとして説明義務違反も合わせて問題とされます。
 技術上のミスは,施術時の手順の詳細がカルテ等からは明らかにならないことも多くその立証には困難を伴うこともありますが,説明義務違反は,比較的認められやすいといえます。そして,本裁判例により,これまでネックであった説明義務違反により損害として認められる範囲も,被害者側の立証の負担軽減という形で広がったと評価しえます。
 本裁判例は,具体的な個別事情も踏まえた判断ではありますが,費用対効果の観点から請求手続きを思いとどまることも多い美容外科トラブルの分野において,今後参考になる事例といえます。

文責:弁護士 池田実佐子

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