文責:弁護士 池田実佐子
先月より,音楽教室での演奏について,音楽教室側が日本音楽著作権協会(JASRAC)に対し著作権料を支払う義務があるのか話題になっていますが,ファッションに関し著作権が問題になった比較的最近の裁判例をご紹介します。
【事案の概要】
X1:イベント等の企画制作コンサルティング業務等を目的とする会社
X2:X1からイベントの企画運営等を受託した者
Y1:放送事業者
Y2:訴外会社保有のブランド「A」のプロモーション代理店
Y1は,Y2の従業員を介し,テレビ番組の中で,Xらが開催したファッションショーの映像(合計約40秒間。以下「本件映像」といいます。)を放送。
Xらは,これにより,X1の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権),X2の著作者及び実演家としての人格権が侵害されたとして,共同不法行為(Y2は使用者責任)に基づく損害賠償を請求。
Xらは,①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権侵害を主張。
【裁判所の判断】*著作物の該当性を中心に抜粋。
⑴ 著作物の定義を規定する著作権法2条1項1号の「創作的」の意義
「厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできない」
⑵ 応用美術の著作物該当性
「量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護される」,「また,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては・・・当該部分を美術の著作物として保護すべき」
⑶ 本件映像の中の①~⑦の著作物該当性(否定)
・①から③(応用美術としての判断)
その美的要素(外観や見栄えの良さ)について,他の者から見られることが想定されるものであるとしても・・・シティやリゾートのパーティ等の場面において実用されることを想定するものであるなどとして,それ全体が美的観賞を目的とするものでなく,実用目的のための構成を分離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を把握できるものではないと判断。
・④⑤
応用美術の問題ではなく,ファッションショーにおけるポーズや動作が 著作物として保護されるかの問題として,本件では,特段目新しいものではなく,作成者の個性が表現として表れているものではない。
・⑥
各要素が組み合わさることにより,作成者の個性の表出というべきよう な新たな印象が生み出されているものとは認められない。
・⑦
出演順序や写真の選択に創作性があるものとも認められない。
【コメント】
本件のファッションショーでは,大量生産されるファストファッションのブランドの衣服やアクセサリーが用いられていました。
本件では,このような応用美術(「実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物」)が「著作物」(著作権法2条1項1号)に当たるか否かが主な争点となりました。
この点について,著作権法上「美術工芸品」が美術の著作物に当たると規定(著作権法2条2項)されているほかは,明文の規定がありませんが,本裁判例は,量産される美術工芸品その他実用目的の応用美術について,著作物性の判断基準を示しました。
本件のモデルの化粧・ヘアスタイルや衣服などのコーディネート(①から③)は,上記のように,「実用目的のための構成と分離して・・把握」できないと判断されましたが,その理由からは,どのような場合に「実用目的のための構成と分離して・・・把握」できると評価されるのかは明らかでないように思われます。
なお,裁判所は,①~⑦のそれぞれについて「美術の著作物」としては否定しましたが,本件のファッションショーが撮影され物に固定されれば,映像は「映画の著作物」として保護されると述べています。
その他,本裁判例の翌年にも応用美術の著作物性について判断した裁判例があり,同裁判例では,幼児を対象とした椅子に著作物性が肯定されています(知財高判平成27年4月14日:TRIPP TRAPP事件)。
以上