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2018.04.29
離婚の際に留意すべき税務ポイント 弁護士 吉田正毅

【離婚と財産分与】
 離婚をした場合、それが協議離婚であっても、裁判上の離婚であっても、離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます(民法768条及び771条)。財産分与が認められる理由としては、3つ挙げられており、①婚姻期間中の夫婦の協力で得た財産の清算を行うため(清算的要素)、②離婚後に生活に困窮するおそれがあるものに対して、婚姻によって失った機会を回復するための自立への支援のため(扶養的要素)、③相手方の暴行や不貞といった行為があり離婚に至った場合の精神的苦痛のために不法行為責任を請求するため(損害賠償的要素)と説明されています。

【財産分与と贈与税】
 財産分与の性質は、上記のとおり、清算的要素と扶養的要素があるため、離婚により相手方から財産をもらった場合、通常は、贈与税はかかりません。ただし、①分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合は、その多すぎる部分に贈与税が課せられ、②離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合は、離婚によってもらった財産のすべてに贈与税がかかるものとされています(国税庁のタックスアンサーNo.4414「離婚して財産をもらったとき」)。

【財産分与と譲渡所得税】
 では、上記のような贈与税がかからない場合であっても、不動産を財産分与として相手方に譲渡した場合は、どうなるでしょうか。この問題について判示したのが最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁です。最高裁は、「財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによって、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである」として、分与者は譲渡時における資産の価額の収入を得たものとして譲渡所得課税の対象となることを明らかとしました。上記の最高裁判決に対して、税法学者からは、財産分与としての財産の移転は、その実質は夫婦共有財産の分割であって、資産の譲渡には当たらないと解すべきであるとして批判がされています(金子宏『租税法』250頁(平成29年、第22版、弘文堂))が、実務では、財産分与が土地や建物などで行われたときは、分与した人に譲渡所得の課税が行われることとなっています(国税庁のタックスアンサーNo.3114「離婚して土地建物などを渡したとき」)。
 しかし、上記の譲渡所得課税は一般には理解されにくいことから、財産分与に伴う税負担の錯誤によって財産分与契約の錯誤無効が認められうるとする最高裁判決もあります(最判平成元年9月14日判時1336号93頁)。

【譲渡益が出る場合の節税策の検討】
 財産分与として不動産を譲渡した場合に譲渡益が想定される場合、居住用不動産の譲渡特例の適用の可否を検討する必要があります。分与者が居住していた不動産を分与した場合には最高3000万円の特別控除(租特35条1項)が適用され、さらに所有期間が10年を超える場合には軽減税率の適用もあります(租特31条の3第1項)。
なお,婚姻中の贈与についてですが,贈与税の特例として、婚姻期間が20年を経過している場合は居住用財産を配偶者に贈与すれば最大2000万円の控除額の適用(相続税法21条の6)が可能です。
 上記のとおり、離婚の際には、思わぬところで税務問題があるため、税務にも十分に留意する必要があります。

文責: 弁護士 吉田正毅

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