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2017.11.15
民法改正(3)~相続関係~ 弁護士 池田実佐子

民法の相続規定の改正ついて,民法(相続関係)部会で平成28年6月21日に中間試案が取りまとめられ,その内容が公表されています(「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」)。
この改正は,高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化を背景とした見直しとされています。
今回は,見直しの概要と,そのうちの配偶者の居住権の保護について取り上げます。

【主な見直し内容】
相続関係の主な見直しとしては,概要以下の5つが挙げられています。

①配偶者の居住権の保護
 短期居住権と長期居住権の創設
②遺産分割に関する見直し
配偶者の相続分の見直し
可分債権の遺産分割における取扱い など
③遺言制度に関する見直し
 自筆証書遺言の方式の緩和
遺言事項と遺言の効力等の見直し
自筆証書遺言の保管制度の創設
遺言執行者の権限の明確化 など
④遺留分制度に関する見直し
 遺留分減殺請求権の効力と法的性質の見直し
遺留分の算定方法の見直し
遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し
⑤相続人以外の貢献を考慮するための方策

【配偶者の居住権の保護】
以下,①の配偶者の居住権について,権利の内容を中心にみていきます。

1 問題点
  配偶者に限らず,自宅建物を所有する被相続人と同居していた相続人の居住権に関しては,現行法下でも,判例によって遺産分割終了までの期間,保護が図られてきました(最判平成8年12月17日:特段の事情がない限り,被相続人と同居の相続人との間に,死亡後も遺産分割の終了までは,同居の相続人に無償で使用させる合意があったと推認)。
ただ,この解釈によっても,被相続人にそのような意思があったとは思えない事情があった場合(例えば,被相続人が建物を第三者に遺贈した場合などが挙げられています。)までは保護されないこととなります。

2 創設される予定の居住権
⑴ 短期居住権・・・遺産分割が終了するまでの保護
配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,遺産分割終了までの間,建物を無償で使用することができる。
これによって得た利益は,配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)に算入しない。
*配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則
配偶者以外の者が遺言又は死因贈与によりその建物の所有権を取得したときは,配偶者は,相続開始の時から一定期間(例えば6か月間)は,無償でその建物を使用することができる。

⑵ 長期居住権・・・遺産分割における保護
配偶者が相続開始の時に居住していた被相続人所有の建物を対象として,終身又は一定期間,配偶者にその建物の使用を認めることを内容とする法定の権利を新設する。
この権利を取得した場合,その財産的価値に相当する金額を相続したものと扱う。
  <要件>
・相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者
・次に掲げる場合
 ⅰ)配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺産分割協議が成立し,又は遺産分割の審判が確定した場合
  ⅱ)配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺言がある場合において,被相続人が死亡したとき。
ⅲ)被相続人と配偶者との間に,配偶者に長期居住権を取得させる旨の死因贈与契約がある場合において,被相続人が死亡したとき。

3 まとめ
今回創設されることになった短期居住権により,遺産分割が終了するまでの期間,保護される配偶者の対象が広がることになります。
また,遺産分割後も,長期居住権によって,建物の所有権そのものを取得するよりも経済的負担を抑え(居住権部分に相当する財産的価値のみの負担で)住み続けることが可能になります。なお,この長期居住権の「財産的価値」をどのように算定するかは,今後の検討課題とされています。
以上
文責:弁護士 池田実佐子

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