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2018.06.04
重加算税についての最近の議論 弁護士 吉田正毅

 重加算税に関して国税不服審判所が出した裁決平成27年7月1日裁決事例集100号に対し、最近の論文で税務大学校教授2名が批判をしています。
 これは、国税不服審判所が税務行政部内における公正な第三者的機関として機能していることを示す有力な事実と思われますが、今回は何が批判されているのか、ご紹介したいと思います。

【事案の概要】
税務署長が、納税者は、正当な売上金額を把握できたにもかかわらず、恣意的に操作して算出した売上金額により所得税の収支内訳書を作成するなどしたことは、隠ぺい又は仮装に当たるとして重加算税の賦課決定を行ったのに対し、納税者が、納税者の行為は隠ぺい又は仮装に当たらないなどとしてその全部の取消しを求めた事案です。
【審判所の判示】
審判所は、請求人は、本件各年分の所得税について、FX取引の損失の穴埋めという自己の資金需要の必要性に基因した過少申告の意図を継続して有していたことは認められるとしながら、請求人が何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を本件収支内訳書に記載していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消しました。

 審判所の判示で問題とされたのは、収支内訳書の虚偽記載は、過少申告行為そのものであり、重加算税の賦課要件を満たさないとした点です。この点につき、澤井勝美税務大学校研究部教授は、「虚偽記載の添付書類を隠ぺい、仮装と認める学説の動向から考えると、収支内訳書は納税申告書の添付書類であること、収支内訳書の作成は申告準備行為であり、さらにうっかりと集計違算があったというのではなく、何ら根拠のない数値が記載されていると認定されていることからすると、事実に反する計算書類の作成として隠ぺい又は仮装行為と考えられ、この点における当該裁決には疑問がある 」としています(澤井勝美「無記帳者の重加算税について」税務大学校論叢84号261頁脚注50)。
 作田隆史税務大学校研究部教授は、「条文で賦課要件として問題になるのは『申告行為』ではなく、『申告書の提出』であり、それとは別の『隠ぺい仮装行為』である。収支内訳書は『申告書』ではない。そして、そこに、例えば売上先別の売上げの虚偽記載があれば、それは明らかに『課税標準の計算の基礎となる事実の隠ぺい仮装』であり、それは税務職員による調査先の選定を難しくするし、正確な課税標準や税額の把握を困難にする行為である。それなのに、裁決ではなぜ重加算税が取り消されているのだろうか。」「公表された裁決書からは、裁決の結論が正しいと判断することはできない 。」などとしています(作田隆史「重加算税の要件における『特段の行動』再考」税大ジャーナル9頁(2017年12月26日掲載))。

 皆様はどう考えますか?私は、収支内訳書は申告行為以外で納税者が作成するものではなく、法人が株主総会で承認を得なければならないとされている決算書類等とは異なり、申告行為とは別の行為とすることには抵抗があります。仮に、申告書のみ提出して収支内訳書を提出しなければ重加算税は課されなかったが、収支内訳書を提出して、記載に誤りがあったがために重加算税が賦課されることとされれば、収支内訳書を提出する納税者は減ってしまうように思います。申告は、納税者にとっては時間とコストがかかるだけで可能な限り手間を省きたい行為です。そもそも無申告が一番悪質な納税者ですが、隠ぺい・仮装がなければ重加算税は課されません。何もしなかった無申告者には重加算税は課されず、申告書だけを提出した納税者も重加算税を課されず、申告書だけではなく、収支内訳書も作成して提出した納税者は重加算税が課されますというのでは、収支内訳書まで真面目に提出した納税者の理解を得られないようにも思います。

文責:弁護士 吉田正毅

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