税務署から税務調査の連絡を受けた場合、納税者は申告に誤りがあったのではないかと不安になると思います。この場合、申告をお願いした税理士さんに連絡をして、税務調査の対応をお願いするのが一般的ではないでしょうか。税務調査の対応について、弁護士に依頼することは通常思いつかないと思われますが、実は、税務調査で弁護士が立ち合うことは、納税者にとって大きなメリットがあるのです。以下、説明します。
一般的な税務手続は、納税者が申告した後、税務調査が実施され、税務調査の結果、税額等に誤りがなければ、申告是認となるのですが、税額等に誤りがあった場合、税務職員から修正申告の勧奨をされます。修正申告をしなかった場合、税務署長から更正処分をされることになります。更正処分に対する不服申立てとして、処分した税務署長に対する再調査の請求と国税不服審判所長に対する審査請求を選択することができます。再調査の請求の決定に対して不服がある場合は、国税不服審判所長に対する審査請求ができます。国税不服審判所の裁決に不服があった場合に訴訟を提起することになります。
「国税庁レポート2016」63頁によれば、課税関係の異議申立て(平成28年4月より異議申立ては再調査の請求へ名称が変更されました。)の新規申立件数は2441件であり、課税関係の審査請求の新規請求件数は1869件です。そして課税関係の訴訟の第一審提起件数は76件にすぎません。他方、「国税庁レポート2016」61頁によれば、申告所得税の実地調査の件数は6万8千件で、申告漏れのあった件数が5万6千件、源泉所得税の実地調査の件数は11万7千件で、非違件数が3万4千件、法人税の実地調査の件数は9万5千件で、申告漏れのあった件数は7万件、消費税の実地調査の件数は、個人が3万6千件で、申告漏れのあった件数が2万9千件、法人が9万1千件で、申告漏れのあった件数が5万2千件、相続税の実地調査の件数は1万2千件で、申告漏れのあった件数は1万件とされています。税務調査の件数と比較して不服申立ての件数の少なさが顕著といえます。
税務事件の場合、再調査の請求や審査請求、訴訟になると、和解で終了することはできず、判決まで争うことになり、国税当局、納税者双方にとって負担が大きいものになります。そのため、多くの税務調査では、訴訟にまで至らないように税務調査の段階で、国税当局と納税者が折り合いをつけて、一定の税額のみを認めて修正申告をすることによる事実上の和解がされています。
この事実上の和解をするためには、訴訟に至ればどのような判断がされるかを理解しておくことが重要となります。例えば、納税者としては、自己に有利な証拠があり、訴訟をすれば国税当局に勝てる可能性があるところで譲歩をする必要はなく、他方、国税当局からすれば、固い証拠があり、訴訟をすれば勝つ見込みが大きいにもかかわらず、譲歩をする必要はないということになりますが、証拠が弱い場合、限られた労力でどこまで調査を継続するかという点も考慮する必要があります。そのため、訴訟においてどのような判断がなされるかは、税務調査における事実上の和解を有利に進めるうえで重要なものといえます。そのため、税務調査で弁護士が立ち会うことは、訴訟に至った場合の見通しを踏まえて、事実上の和解をすることができるようになるため、納税者にとって大きなメリットがあるといえるのです。
文責:弁護士 吉田正毅