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2018.08.31
仮想通貨の法律と税務の現状 弁護士 吉田正毅

 ビットコインを始めとする仮想通貨の利用者が増加したことに伴い,仮想通貨をめぐる法律と税務が急ピッチで整備されてきています。まだ仮想通貨についての法律や税務が完備されたとは言い難い状況ですが,現在までの法律と税制の状況を簡単にご紹介します。

【法律】
 平成28年6月に,資金決済に関する法律の改正により,仮想通貨の利用者保護を目的として仮想通貨交換業者の規制が定められ,平成29年4月1日から,国内で仮想通貨と法定通貨との交換サービスを行うには,仮想通貨交換業の登録が必要となりました(金融庁「仮想通貨に関連する事業を行う皆様へ」参照)。

【税務】
1.所得税
 国税庁は,平成29年12月1日付個人課税課情報第4号「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」を公開し,ビットコインを始めとする仮想通貨を売却又は使用することにより生じる利益は,事業所得等の各種所得の起因となる行為に付随して生じる場合を除き,原則として雑所得に区分されるとしました。そのため,現在有価証券やFXのように売買が行われている仮想通貨ですが,有価証券やFXのように申告分離課税で税率が20%(所得税15%,住民税5%)となるのではなく,雑所得として最大で55%(所得税45%,住民税10%)の税率が付加されることとなります。計算方法の具体例は,上記の情報で紹介されており,確定申告書への記載の仕方は,確定申告書等作成コーナーのよくある質問の「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」で紹介されています。
 さらに国税庁は,「仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合」という質疑応答を公開しています。同質疑応答によれば,仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の保障を受けた場合,その補償金は,基本的には,雑所得として課税の対象となるとしています。

2.法人税
 法人税法上の取扱いについて,現在国税庁から情報は公表されていません。一方で企業会計基準委員会が平成30年3月14日付で「実務対応報告第38号 資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」を公表しています。上記実務対応報告の実務上の取扱いⅠ.1.5において,会計上は,仮想通貨を期末に市場価格に基づく評価を行い,帳簿価格との差額を当期の損益として処理するとされています。法人税法は,25条において,保有する資産の評価替えをしてその帳簿価格を増額した場合の資産の評価益は益金の額に算入しないと定めており,33条において,同様に資産の評価損は損金の額に算入しないと定めています。したがって,上記の実務上の取扱いで会計上は,期末に仮想通貨について評価益又は評価損が計上されますが,税務上は,申告書別表4で減算または加算し,損益を認識しないこととなります。

3.消費税
 仮想通貨は,平成29年の税制改正で,資金決済に関する法律第2条第5項に規定する仮想通貨については,平成29年7月1日より消費税法上非課税とされました(消費税法施行令9条4項)。
 平成29年6月30日までは消費税法上課税取引として扱われますが,施行日前に仕入れ税額控除を目的として仮想通貨を駆け込みで仕入れ,仮想通貨の市場に大きな影響を及ぼすことを防止するため,施行日の前日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨を保有しており,施行日前日の仮想通貨の保有量が,平成29年6月1日から6月30日までの各日の仮想通貨の平均保有数量に比べて増加した場合,増加分については,仕入れ税額控除を認めないとする経過措置が設けられています(消費税法施行令附則(平成29年3月31日政令第109号)8条1項)。

4.相続税
 相続税法上の取扱いについて,現在国税庁から情報は公表されていません。しかし,仮想通貨が経済的価値を有することは明らかですので,相続税法上の財産として取り扱われることとなります。問題は,仮想通貨の評価額です。現在財産評価基本通達において仮想通貨の評価についての定めはありませんので,課税時期の相場で評価することとなると思われます。ただ,上場株式と同様に価格が乱高下することがあることから,上場株式と同様の評価となるような手当の必要性が指摘されており,財産評価基本通達において何らかの手当てがされるのではないかと思われます。

 以上のとおり,仮想通貨についてはまだ法律も税務もこれから整備が進んでいくという状況です。仮想通貨の税務上の取扱いについて理論的な検討については,安河内誠税務大学校研究部教育官の「仮想通貨の税務上の取扱い-現状と課題-」が詳しいので,さらに検討されたい方はこちらをご覧ください。

文責 弁護士 吉田正毅

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