国税通則法68条1項は、過少申告加算税が課税される場合(通則法65条1項)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該隠ぺい又は仮装に対応する部分について、過少申告加算税に代えて、35%の税率による重加算税が課税されると規定しています。
したがって、重加算税を賦課するには事実の隠ぺい又は仮装が要件となります。事実の隠ぺいとは、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入若しくは架空経費の計上、棚卸資産の一部除外等によるものがその典型的なものとされており、事実の仮装は、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等がその典型的なものとされています。
しかし、実務では、必ずしも上記の隠ぺい又は仮装がない場合であっても重加算税の賦課要件を満たすとして、重加算税が適法とされる場合があります。税務職員はそのような重加算税について、ことさら過少申告による重加算税と称することがあります。
ことさら過少申告について最高裁が判示したものとして最判平成6年11月22日民集48巻7号1379頁があります。これは、個人でサラリーマン金融業を営んでいたAが、その所得金額の3,4%に過ぎない過少の所得金額を記載した申告書を3年間提出したことについて、税務署長が重加算税の賦課決定処分をした事案です。
控訴審である大阪高判平成5年4月27日訟月40巻4号856頁は、過少申告が、隠ぺい、仮装行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りないなどとして、重加算税の賦課決定処分を取り消しました。
最高裁は、Aは、単に真実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したというにとどまらず、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかであるとし、各確定申告は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、国税通則法68条1項にいう税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合に当たるというべきであるとしました。
さらにその後、最判平成7年4月28日民集49巻4号1193頁が、「重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるということだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである、しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである」という規範を示し、以降は上記の隠ぺい又は仮装行為がない場合であっても、平成7年の最高裁判決が示した要件を満たせば、重加算税が課されることとなりました。
しかし、平成7年の最高裁判決は、何をもって特段の行動とするのか不明確であり、同判例を根拠に課された重加算税の賦課決定処分が取り消されることも少なくありません。
そのため、隠ぺい又は仮装行為がないにもかかわらず、ことさら過少申告であることを理由として重加算税の賦課決定処分を受ける場合、それが妥当な判断であるか専門家に問い合わせることをおすすめします。
弊所では、ことさら過少申告を税務調査で取り扱った実績がありますので、お気軽にご相談ください。
なお、重加算税についてさらに勉強されたい方は、拙稿「重加算税―特段の行動の類型― (上)」「同(下)」「重加算税-事実の隠ぺい・仮装と税法上の評価誤り(上)」「同(下)」もご参照ください。
文責: 弁護士 吉田正毅