相続紛争の解決 ~調停(家庭裁判所)の利用
相続が発生し、遺言がない場合、遺産を分けるには、相続人全員の合意が必要です。
話合いで解決するのが理想ですが、現実には、一部の相続人が強硬である、通帳などを開示してくれない、感情的になってしまうなどの理由から、逆にこじれたり、相手方の言い分が法的に正しいのか分からないことも少なくありません。
そのような場合、専門の第三者に入ってもらうことが一番です。
1 調停のメリット
家庭裁判所の調停は、法廷ではなく「個室」で調停委員が相続人各人から交互に言い分を聞き取り、円満な合意をめざす手続です。当事者同士が同席して議論をすることはありませんので精神的ストレスも少なく、公平中立な専門家のアドバイスが期待できます。
費用も安いのもメリットです(遺産の額や相続人の数に関係なく、1件1,200円の印紙、若干の切手代。この他に戸籍謄本、不動産登記簿謄本、などの公的資料が必要です)
合意が成立すると「調停調書」が作成され、不動産移転登記、銀行預金払戻しなどの手続きもスムーズにできます。
遺産分割調停の申立件数は年々増加していますが、その大半は遺産5000万円以下という統計もあります。
日本経済新聞(2014年12月28日)
2 調停の限界
調停は、裁判所が関与するとしても、あくまで当事者の自主的合意が必要ですので、結果としてまとまらない(「不調」といいます)こともあります。ときには、調停を出せば「裁判所が遺産を調査して調べてくれる。」と期待する人がいますが、これは誤解です。
また調停委員会は「中立」ですから、当事者の考えが明らかに法律上誤っているときはそのことを指摘しますが、逆に、当事者の一部に「有利な方法」までを積極的に教えることはできません。
3 弁護士依頼
調停段階でよく生じる紛争として、
①死亡前後に引き出された預金や使途不明金
②生前に被相続人からうけた援助や遺産を無償で使用して得た利益
③被相続人の介護や資金援助をしていた相続人の「寄与分」
④銀行預金や「生命保険」
⑤賃貸物件から生じる家賃・地代収益
の取り扱いがありますが、これら高度な法律問題です。
また調停が不調のときは、「審判」(遺産の分け方について裁判官が命令を下して解決する)手続きに移行するのが原則ですが、審判での判断事項は限られており、上記➀~⑥の紛争の中には審判では取り上げられない事項もあります。
これらの諸問題については、最近、東京家庭裁判所を中心「運用基準」が設けられています。以前は調停委員向けの内部資料でしたが、最近ではこれが公表されています。
本人の判断だけでは難しいことも多いので、調停を起こす前、また調停中も、相続に精通した弁護士相談、弁護士依頼をすることが重要です。
写真は共著の実務書(文責・弁護士中田利通)